香川県内企業・財団の取組

高気密木製スライドドアが拓く木工建具の新しい可能性(有限会社シティング)

香川県内の元気な企業を訪問し、その企業が発展してきた過程と躍進を続ける今、そして未来への指針についてお聞きする「かがわ発!元気創出企業」。今回は、高松市にある「有限会社シティング」を訪ねました。

住宅の暑さ・寒さを大きく左右するのは「開口部」の気密・断熱性能だ。高い性能とデザイン性を兼ね備えた木工建具・家具で快適な暮らしを支えるシティングは、約半世紀のノウハウを込めて、まったく新しい引き戸タイプの玄関扉を開発。代表取締役・小西洋一さんと息子の一樹さんに、ものづくりにかける思いを伺った。

自然素材を使いこなす長年の木工ノウハウ

現代の建築は高気密・高断熱性能を求められることが多く、建具なども気密性を保ちやすい金属製が主流だ。そんな中で、シティングは高い性能を備えた独自の『高気密木製スライドドア Chigiri』を開発し、木工建具に新しい可能性を拓いた。
同社は木製家具・建具の製作を主業とする木工所。椅子職人にあこがれて秋田で修業を積んだ小西洋一さんが1988年に創業し、現在は住宅から店舗・大型施設まで、さまざまなシーンで木のぬくもりを伝えるものづくりに取り組んでいる。気密性の高い木製サッシの製造技術を既に確立しており、木製建具に付き物の伸び縮みをできるだけ解消するノウハウも豊富。その技術力が『Chigiri』の開発につながった。
『Chigiri』は、開く時に外へ向けてカーブしながらスライドし、手を離すとマグネットの力で半自動的に閉まるという、これまでにない機構で動く引き戸タイプの玄関扉だ。素材は主にひずみにくいヒバやマホガニー。レバーハンドルなどによるロック操作が要らない分、デザインの自由度が高く、取っ手や塗装の細かいオーダーにも対応する。木材と木材を繋ぎ合わせる部材を木工の世界で「千切り」と呼ぶことにちなみ、「枠と建具をしっかり繋ぐ」「軽やかな動きで家の中と外を繋ぐ」といった思いを込めている。

「軽くて半自動」のヒントは冷蔵庫から

一般的に、引き戸タイプの建具は気密性を保つのが難しいとされる。さらに木は金物と違って、製品の完成後も伸び縮みやひずみが出やすく、気密・断熱性能の高い「木製引き戸」の難易度はきわめて高い。現在ドイツの製品が流通しているが、気密性を保つにはいちいち手動でロックする必要がある・扉自体が非常に重たいといったデメリットから、結果的にロックせず開けっ放しになりがちというケースも多い。
同社が目指したのは「玄関扉にも使える性能とデザイン性を兼ね備えた、軽くて半自動の木製引き戸」。ドイツの製品とはまったく別の仕組みをゼロから考えるに当たって、冷蔵庫のドアがヒントになった。「人の手で閉めなくてもマグネットパッキンでぴったり閉まる仕掛けを、引き戸に応用できないかと試行錯誤しました」(洋一さん)。
2022年、かがわ産業支援財団の助成事業を活用し、よろず支援拠点と連携しながら開発がスタート。特殊な動きをするため既存の金物には合うものがなく、また「玄関扉は金物も一番かっこよくないと!」というデザインへのこだわりもあって、レール金物も新規開発した。

従来引き戸とchigiri高気密引き戸の比較

さらに完成度を高めつつ認知向上とシェア拡大へ

2024年に完成した『Chigiri』は、軽やかに動く独自の機構とデザイン性の高さから展示会などで注目を集め、工務店やハウスメーカーだけでなく個人からの依頼もあるという。「縦型だけでなく横長タイプやスマホ対応タイプ、防音性を加えて玄関扉以外にも使えるタイプなど、いろんなアイデアが浮かぶしニーズもあると感じています。グッドデザイン賞も視野に、ラインナップを増やしたい」と洋一さん。
一方、一樹さんは「まだまだ課題も多い」と語り、特に設置の簡略化を重視。現在は完成した扉を施工現場に搬送し、一樹さんをはじめとする同社のスタッフが現地に足を運んでレールの微調整などを行っているが、いずれは輸送しやすく誰でも簡単に設置できるコンパクトな組み立てキットとして展開したい考えがある。「ひとまず完成はしましたが、今後もどんどん改善していくつもりです」。
量産が難しいため大規模なニーズには応えづらいが、引き戸のシェアを増やしたい思いも強く、まずは中四国~関西での認知向上に意欲を見せる。財団の販路開拓支援を活用して7月に行われる総合展示会「建築・建材展」に出展するなど、積極的なPRを通じて「Chigiriの価値を体感してもらい、一目見た時の驚きが購入につながるチャンスを広げたい」と展望を語った。

有限会社シティング

会社概要

所在地 高松市生島町420-6
電話 087-881-9660
URL https://sitting.jp/