香川県内企業・財団の取組

燻製加工と県産品の旨みで醤油に新たな価値を創造する(有限会社宮地醤油醸造場)

コロナ禍と業界の現状を打開するために

有限会社宮地醤油醸造場は、1903年の創業以来、屋島のふもとで110余年に渡り操業を続けている醤油醸造場。伝統の味を守りつつ、顧客のニーズに応じて時代に合った醤油を提案し続けている。個人客はもちろん、食品メーカーや飲食店、とりわけ讃岐うどん店からも熱心な支持を得ている老舗だ。

しかし2019年から始まった新型コロナウイルスの流行で人々が外食を控えるようになり、その影響で売上が激減した得意先からの注文が減少。経営に少なからず打撃を受けることとなった。また、かねてより業界全体の市場も縮小傾向にあり、危機感を抱いていた中でのコロナ禍の到来は、専務取締役の宮地正和氏に現状を打開しないといけないという思いを強くさせた。

そこで取組みを始めたのが、以前から構想のあった香川県の特産物や県産品を使った新しい醤油の開発。しかし、アイデアはなかなかまとまらず、形にするまでには至っていなかった。

そんなある日、久しぶりの同級生との再会が新製品開発のきっかけとなる。当時、その同級生は豊島でレストランのシェフを務めていたが、その店で自ら燻製した醤油を料理に使っていたのだ。県産品を使った醤油の開発を考えているという話を聞いた同級生は、燻製醤油を製品化してみないかと提案。宮地氏は快諾し、ここから燻製醤油の開発が始まった。

燻製した醤油自体は既に他社から市場に出ていた。そのため新商品には、香川らしさを感じられる特長を持たせるなどの工夫が必要だった。そのため、シェフと検討を重ねた結果、燻製醤油にこだわりの県産食材を漬け込み、その旨味を隠し味として加えるというアイデアに至る。醤油を燻製するという発想や、シェフの経験が光るアイデアに自信を持った宮地氏は、これをきっかけに製品開発に舵を切ることとなった。

スモークウッドを使い燻製している様子

異分野への挑戦を、試行錯誤で乗り越える

目指すべき方向は決まり、シェフの手厚い協力は得られたものの、それを実際に生産ラインに乗せるまでには想像以上の苦労が待ち構えていた。

まずはベースとなる醤油を、どのようなタイプが燻製醤油に適しているのか見極めなければならない。材料や製法が違う様々な醤油を検討した結果、国産丸大豆を使った醤油に行き着いた。

次に生産設備だが、シェフは燻製醤油を作るための設備を整えていたものの、それはレストランで使うごく少量を作るための小規模な物であり、量産化には適さなかった。そのため一から設計する必要があったが、醤油造りとは全く畑違いの分野だった燻製機の製作は、試行錯誤の連続だった。

燻製には数種類の天然の樹木を使用。最初はチップを使っていたが、液体の醤油は燻す過程で少しずつ蒸発するため、加熱し続けなければならないチップではほぼ水分がなくなってしまう。そこで最初火を点ければ、後は加熱しなくても良いスモークウッドに変更することで問題を解決。より鮮烈な香りを付けるため、二段階に分けて燻製する方法を採用している。

醤油に使用するのは「伊吹いりこ」、「香川本鷹」に、五色台で採れたハチミツという、3種類の県産天然原料。それぞれ生産者から高品質なものを直接仕入れている。讃岐うどんのダシに使われることでも有名な伊吹いりこは、最も香りが出やすい「中羽」を使用。上品な香りと辛味が特徴の希少な県産唐辛子「香川本鷹」からは香りと旨味成分のみを醤油に移しているので、辛味はほとんど感じられない。そして砂糖ではなくハチミツで天然の甘味を加えた。ハチミツは味を安定させるため、山レンゲとミカン蜜のみのブレンドを使っている。

こうして約2年を費やして完成した燻製醤油は、当初バイヤーから「高すぎる」と敬遠されたが、化学調味料や添加物を一切使用せず、天然原料を前面に押し出したことも幸いしたのか、いざ販売を開始すると売れ行きは上々でうれしい結果を得ることとなった。

原料には「国産丸大豆」、「伊吹いりこ」、「香川本鷹」、「五色台産ハチミツ」を使用

燻製醤油の良さをPRするために

燻製醤油は現在、県外は食品のセレクトショップ、県内では道の駅や栗林庵等のお土産店を中心に販売している。醸造場のある屋島をあしらった高級感あるパッケージも好評だ。添えられているレシピは、プロの料理人に依頼して製作した。その内容も、料理店の料理長が考案した醤油をかけるだけの簡単なレシピと、料理教室の先生が考えた本格的なレシピの2種類を用意している。

燻製の香りをより楽しむには、火を通さずに素材にかけたり、皿に垂らしてつけて食べるのがおすすめ。火を通す場合でも、最後の仕上げに入れると香りが引き立つ。イタリアンレストランでも使用されていることからも分かるように、和食に限らず様々なジャンルの料理と相性が良い調味料だ。

機械を使わず、ほぼ手作りのため多くは作れないことと、販路が限られていることが今後の課題だ。生産効率の向上と新たな販路の開拓、そしてもう一品県産素材を使った新商品を開発しようと、宮地氏は奮闘している。

商品にかける熱き想い

完成時はコロナ禍のまっただ中だったため、試食ができず、お客様に特長ある燻製の香りや原料の旨味を味わっていただけなかった。試していただければ良さを分かってもらえるはずなので、コロナが落ち着いたら積極的に催事に参加し、試食の機会を増やしていきたいですね。

専務取締役 宮地 正和 氏

有限会社宮地醤油醸造場

会社概要

所在地高松市屋島西町287-3
電話087-841-9422
URLhttps://www.miyaji-syouyu.com/
従業員数4名
資本金300万円