香川県内企業・財団の取組

生産性の向上と社員の気付きをもたらしたコンサルタントの提言(安田食品工業株式会社)

生産効率の向上で業績不振を打開

江戸時代から醤油醸造が盛んに行われて来た小豆島町。また、町内ではその醤油を使った佃煮も多く作られており、1948年創業の安田食品工業株式会社も、そんな佃煮メーカーの一社だ。

地元の有志の出資によりできた同社には、今でも300人近い小口株主がおり、社名に地域名の「安田」を冠していることからも分かるように、地域密着型の会社だ。路面店型の直売ショップ「瀬戸よ志」の売上に占める、地元客の割合が多いことからもそれが窺える。

イチ押しは北海道産の昆布を使った佃煮。実は同社は、西日本より東日本地域で製品を多く販売している。中でも塩吹昆布は、北陸・東北地域では業界大手をしのぐ売上を誇る。同じく北海道産昆布を使った昆布茶も人気。自社販売だけでなく、大手メーカーのOEMとしても出荷している。近年では健康志向のユーザーをターゲットにした希少糖を使った佃煮や、大豆ミート製品を大手に先駆けて販売。佃煮離れが進んでいると言われる若年層向け製品の開発にも余念がない。

しかし、一昔前までは季節特需であったおせち用の昆布巻きや田作りの売上が、おせち離れや価格競争のあおりを受けて激減。業績は好調とは言えない状況にあった。そこへやってきたのが新型コロナウイルスによる打撃だ。佃煮を卸していた外食産業の取引先の売上低迷の影響を直接受けることになった。さらに追い打ちをかけるように、原料と光熱費が大幅に値上がりしたのである。同社はこのダブルパンチでさらに業績を落とすことになった。

経営環境の悪化に苦しむ同社に、光明をもたらしたのは金融機関からの提案だった。「生産性を上げ、効率を良くしてコストダウンを図ること」。過去にも改革に取り組んだことはあったものの、その結果は芳しくなく、社内での対応には限界があると感じた当時の城上社長(現会長)は、コンサルタントに依頼し、本格的な改革に着手することにした。

社外の目だからこそ気付くことができた様々な問題

来社したコンサルタントが、最初に行ったのは生産工場の下調べだった。まず今抱えている工場の中の問題点を洗い出しつつ、生産性の実態を数値化。そして、目標を設定し改善につなげるのだ。その手法も工場で実際に働く人たちの意見や気付きにより解決していくことが主体になっていた。

具体的に数値化する必要があったため、全ての業務を洗い出し、実際に時間がかかり過ぎていたり、無駄のある作業をチェック。そこを改善するためにはどうすれば良いのか、というテーマを絞った活動を1年間続けたのだ。その結果、いくつかの改善につながる取り組みを発見することができた。

以前はクライアントからの急な注文が重なった場合、生産現場からキャパオーバーで断られることがあり、泣く泣く注文を逃していた。その原因の1つになっていたのが、社内の縦割り状態である。5つある部署はそれぞれ、自分の所が暇でも忙しい部署へ手伝いに行かず、また別部署で人手が足りないか確認することをしていなかったのだ。

また生産工程でどうしても「待ち」が発生する部分があるが、担当者はその間見ているだけで、ここでもロスが発生していた。昆布を煮る前処理の巻き工程では、明らかに担当者毎のスピードが異なっていた。そのためスピードの速い熟練者のノウハウを可視化し、スタッフ間で共有すると、作業速度が驚くほどアップしたのだ。さらに、原料の選別やラベル貼りなどが生産のボトルネックとなっていることに注目。他部署から応援を派遣する等、それを解決するための方策も考案した。

このようにコンサルタントの指導のもと、社内の人間では気付けそうで気付けなかった様々な問題を洗い出し解決したことで、生産効率は大幅に改善した。月初めに行われている「製販会議」では、製造と販売の各部門が密に意見交換し、部署間での連携も強化。その結果、キャパオーバーで注文を逃すことが激減したのである。

生産性の向上がもたらしたもの

コンサルタントによる1年間の指導後、生産性の向上はもちろん、スタッフの意識も大きく変わった。以前は「できない理由」を探していたのが「できないことを解決するためにはどうしたらよいか」を自主的に考えるようになったのだ。

スタッフ同士の協力も、生産部門間はもちろんのこと、販売部門の営業担当も手を貸すようになった。これによりお互いの仕事への理解が進み、ありがちだった両部門の確執もなくなったという。また、改革は人だけにとどまらない。工場内には既に使われなくなった古い機械がそのまま放置されて動線を阻害していた。これを整理することでスムーズな動線を確保する予定だ。

今の時点では、効率化で利益や含み益を出すことはできず、原料や光熱費の高騰分を吸収するにとどまっている。しかし社内に根付いた効率化の意識は、何ものにも代えがたい宝。未来に向けて、業績を改善させるための大きな原動力となってくれるはずだ。

取組にかける熱き想い

社員に意識改革をしてもらうには、耳にタコができるくらいでちょうど良いと思います。自分に都合の悪いことは忘れますから。「私が何でこんなことを」ではなく、「それが私の仕事だ」と思ってくれるようになれば。まだ改善の余地はあるので、これからも「言う側」を担当していこうと思います。

代表取締役社長 秋長 健一 氏

安田食品工業株式会社

会社概要

所在地小豆郡小豆島町安田甲103
電話0879-82-2225
URLhttp://www.yasudanotukudani.co.jp
従業員数70名
資本金3,200万円