香川県内企業・財団の取組

ドローンの飛行が不可能な場所をカバーする全く新しい製品(株式会社空撮技研)

できないことを手持ちの技術で可能にしたアイデア

既に社会の様々な場所で活躍している小型無人機・ドローン。その用途も撮影だけにとどまらず、測量や物資搬送、農薬散布等多岐に渡っている。株式会社空撮技研は、そんなドローンを使っての空撮や機体の販売・製作、操縦者を育成するスクール運営等を行っている会社だ。

ドローンは既製品の販売だけではなく、用途に応じて機体のカスタマイズやオーダーメイドを行っている。例えば25㎏もの荷物を運べる大型機を徳島県の林業組合のオーダーで製作。以前は苗等を尾根を越えて人の足で運ぶのに1時間かかっていたが、ドローンの導入後はわずか5分でできるようになったと評判も上々だ。

また近年には、ドローンの飛行を邪魔せず、暴走防止用のラインで機体をつなぐことができるアシスト装置「ドローンスパイダー」を開発。これを装着することでドローン使用時の安全性が向上し、特定条件下での飛行の許可が不要になるため、多種多様な現場に導入されている。

そして今まで培ってきたドローンの技術を応用し、新たに開発したのが風力自立棒「たおれん棒」。一見すると先にプロペラが付いた長い棒だが、スイッチを入れると4枚のプロペラが棒の傾きに応じて回転して風を起こし、自立するのだ。

この全く新しいジャンルの製品開発のきっかけになったのは、工場や施設の高所をドローンで点検して欲しいという依頼だった。しかし人口密集地や空港付近など、ドローンの飛行が禁止されている場所はもちろんのこと、申請すれば許可は出るものの、時間が非常にかかるため事実上断念せざるを得ないエリアも多く、代表取締役の合田豊氏は歯がゆく思っていた。

長い棒にカメラを付けて撮影を試みるもフラフラして安定せず、何よりも危険。そこで棒の先にドローンのプロペラを付ければ、傾きやふらつきの防止をアシストできるのではないかと閃いたのだ。

逆転の発想でドローン飛行禁止エリアの撮影を可能に

構想の初期段階では完成品のように完全に自立するとは思っていなかった合田氏。しかし開発を始めて間もなく、プロペラをうまくコントロールすれば補助だけでなく自立させられるのではと思いついた。しかし、地面と水平にプロペラが付いているドローンに対し、「たおれん棒」は垂直に付いているため、従来のドローン用コントローラは使用できない。そのため、自社で一からコントローラを開発することになり、同様に制御用の基板も社内で製作した。

現在ではコントローラ・基板共に、設計図や仕様を社内で作り、外部に製作を委託しているが、数年続いている世界的な半導体不足の影響で部品の入手困難に悩まされている。もうひとつの重要パーツが「棒」そのもの。「たおれん棒」のポールには、軽くて丈夫なカーボン製を採用した。しかし、実際に取り付けて実験してみないと、どのタイプが最適なのか分からなかったため、1本20万円前後するカーボンポールを何本も購入することになった。この世にない物を開発する際には非常にお金がかかり、開発資金の必要性を再認識することとなった。

発想から試行錯誤を繰り返すこと約3年、ようやく自立させることに成功。約1㎏の重りを乗せ横風を受ける状況でも無理なく自立し、製品化への目途が立った。「たおれん棒」を構成する部品は、自社で設計し社内の3Dプリンタで出力。素材にはカーボンナイロンを使用している。プラスチックに比べるとかなり高価だが、粘りがあり破損に強い。製品化に向けての落下試験でも好成績を残している。

合田氏は、発案してすぐ特許を申請。併せて商標も無事取得することができ、現在3件目の特許を出願中だ。ドローンでは行けない場所に、ドローンの技術で対応した「たおれん棒」。ドローンではないから、飛行許可はもちろん必要ない。まさに逆転の発想の勝利と言える。

ブランコの上で自立する「たおれん棒」

豊富な人材を確保し開発にまい進

「たおれん棒」は、1.5mと8mの2タイプの製品の販売を開始しており、大手通信建設会社と販売契約を結んでいる。現在は20mタイプの実用化に向けて実験を続けている。2022年10月には県外の工業大学の協力で、「世界初」の鳴り物入りで日本最大のIT展示会「シーテック」にも出展。期間中は8mの製品を継続して自立させた。ドローンと違い、外部から電源の確保ができるため、このような長時間の運用が可能なのも強みだ。

今までに無かったものだから、その用途はまだまだ未知数だ。実際、開発当初は高さを求めていたが、意外と重量物を搭載できることに気付き、アイデアが広がったという。3D設計やプログラミングを担当できる社員も入社し、ロボット工学系の学生も入社予定。部品の出力時間がネックだった3Dカーボンナイロンプリンタも、台数を増やすことで問題に対応した。社内のメンバーの層はより厚く、機材も充実させた同社。これからの開発にますます弾みがつきそうだ。

商品にかける熱き想い

進化のスピードが非常に速いドローンや、次々と改正される航空法等関係法令への対応は続けていくのが大変です。それに比べ、「たおれん棒」のような自社開発製品は自分のペースで開発できる。夢は成層圏まで伸ばせる宇宙エレベータですよ。

代表取締役 合田 豊 氏

株式会社空撮技研

会社概要

高松国分寺校(ドローンスクール)
所在地観音寺市大野原町萩原2351
電話0875-54-2600
URLhttps://www.multicopter.co.jp
従業員数9名
資本金300万円