香川県内企業・財団の取組

高級卵、烏骨鶏卵を使用した極上スイーツ それぞれの烏骨鶏バウムクーヘン(株式会社エフディアイ、有限会社松本ファーム)

自社のオリジナル製品を開発したかった両者

エフディアイは、かつて菓子包装などを手がけていたが、平成24年からミニバウムクーヘンに特化した菓子製造業に業態変更した。当時はバウムクーヘンブームだった背景もあり、土産用ミニバウムクーヘンの受注は順調に伸びていた。しかし、その8割がOEM(他社ブランド品の製造請負)だったため、収益性が低く、一般消費者には「エフディアイ」という名前も知られていなかった。

そこで、こだわりのあるオリジナルのミニバウムクーヘンを作りたいと考え、素材として注目したのが、県内では珍しい、烏骨鶏専門の養鶏業者「松本ファーム」の卵だった。烏骨鶏の卵は一般的な鶏卵に比べ、ビタミンB1やビタミンB6など栄養価が高いのが特長。松本ファームの烏骨鶏は一度も他の鶏と交配させることなく大切に育てられている点でも高付加価値が訴求でき、高級感のあるオリジナルバウムクーヘンが期待できると考えた。エフディアイの原準二社長は、実際に試作をして味の違いが充分訴求できることがわかり、商品開発を希望した。

そんな思いを伝えられた松本ファームの松本光弘社長は、それまで顧客の大半が通信販売の個人客ばかりだったため、一定量が必要になるその申し出に驚いたという。烏骨鶏は一般的な鶏のように毎日卵を産むわけではない。松本ファームでは烏骨鶏約5,200羽を飼っているが、1日に規格サイズで通販出荷できるのは、わずか600個程度。一方で、サイズが大きすぎたり小さすぎたり、形が悪いなど規格外卵が全体の5~6割も出ているという課題も抱えていた。この規格外卵の有効活用という点では、とてもありがたい話だった。

また、顧客からは「贈答用に烏骨鶏卵を使ったスイーツが欲しい」という要望も出ていた。チーズケーキなど、冷凍スイーツを扱ってはみたが、常温の卵と同梱できないことから伸び悩んでおり、自社の卵を使った常温製品なら、松本ファームとしても欲しい商品だった。こうして、双方の課題解決に向けた連携事業として取り組んでいくことになった。

烏骨鶏は一般的な鶏よりもひと回り小さい。卵も1個40gと一般的なMサイズ約60gに比べて小ぶりだ
規格品として出荷できない卵が平均に5~6割発生する

液卵加工することで事業が加速

エフディアイが通常使っている鶏卵は、卵を割って撹拌した液卵の状態で仕入れている。「うちのミニバウムクーヘンは一度に640個作れる機械で製造しますので、何百個もの卵を手で割るなんてことは難しく、烏骨鶏の卵もまず液卵にしてもらう。液卵でなければ無理なんです」と原社長。試作を繰り返すレシピ開発の数カ月間に、液卵にする方法を両者で検討した。

松本社長が相談した先は、同社が烏骨鶏専門に切り替える前、まだ先代が一般的な鶏卵を扱っていた30年近く前の取引先。事情を話して相談してみると、その会社に液卵加工の実績があり、快く引き受けてくれた。数カ月後には、エフディアイの地元、観音寺の業者が鶏卵用の機械を使って液卵にすることができるようになり、現在では観音寺の業者から4キロ単位でパック詰めにした液卵が、冷蔵もしくは冷凍でエフディアイに届けられている。

「冷凍しない液卵のほうがおいしく仕上がるので、なるべく製造直前に冷凍せずに受け取るようにしています。ただ、量が揃わない場合もあるので、冷凍液卵と合わせて使うこともあります」(原社長)。スムーズに液卵にすることができたことで量産の見通しがついた。

もう一点のポイントは、同じものをそれぞれの製品に仕上げたことだ。両者それぞれのパッケージを作り、それぞれに製品名をつけることにした。松本ファームでは、従来の烏骨鶏卵10個入りパックと同梱できるよう、ミニバウムクーヘン用にサイズを合わせた箱を作った。商品名は、ストレートに烏骨鶏卵の繊細なおいしさを味わってもらいたいと「シルキーバウム」(写真左頁の下の箱)と名付けた。一方、エフディアイでは、バウムクーヘンにチーズフォンデュソースを添え、電子レンジで温めたソースを付けて食べることを提案する「ばうむ ど ふぉんでゅ」(写真左頁の上の箱)という商品にした。

ミニバウムクーヘン製造1回あたりの生地に使う卵の数は約400個。液卵にすることで量産が実現できた
ミニバウムクーヘンの焼き機は1度で約640個分を焼き上げる

互いの販路に合わせた展開

松本ファームにとっては、単に常温製品のミニバウムクーヘンができたということだけでなく、烏骨鶏卵を液卵にして流通させることが可能になり、B to C(消費者向け)中心だった販売形態から、B to B(企業向け)の展開が可能になった。「今回の事業で大きな期待につながりました」(松本社長)。将来的に液卵の需要が見込めれば、自社で割卵機や撹拌機などを導入して、液卵製造ができる環境整備も検討していきたいと考えられるようになった。

一方、エフディアイにとっては、こだわりのあるオリジナル製品を持ったことによって、これまでB to B(OEM)中心だった販売から、B to Cに力を入れていく必要が生じた。「百貨店の催事出店など、これまでやったことのない販促活動も積極的にやってみたい」(原社長)と意欲的だ。

令和元年9月にこの農商工連携事業が終了し、それぞれの商品はようやく販売開始になったばかりである。液卵で将来の可能性が広がった松本ファームには事業拡大の夢が生まれ、ようやくこだわりの自社製品ができたエフディアイには、これに続くオリジナル製品の開発と独自の販路開拓が、次の目標になっている。

農商工連携事業に取り組んでみて

農商工連携事業は相手がいるだけに、今までアイデアだけで進まなかったことが、なんとかしなきゃいけないと、真剣に考える機会になりました。
松本ファーム 代表取締役社長 松本 光弘 氏(写真 右)

オリジナル商品を掲げたいという当社の希望から始まって、結果的に松本さんの新たな展開にもつながり、双方にとって本当によかったです。
エフディアイ 代表取締役社長 原 準二 氏(写真 左)

株式会社エフディアイ

会社概要

所在地 三豊市山本町辻1074-1
電話 0875-63-2669
URL http://www.fdi.jp/
従業員数 9名
資本金 10,000千円

有限会社松本ファーム

会社概要

所在地 さぬき市津田町鶴羽375
電話 0875-63-2669
URL https://www.mfarm.jp/
従業員数 9名
資本金 3,000千円