香川県内企業・財団の取組

野外で使える粘着シートで建設業界の常識を覆す(株式会社菊井商会)

「コンクリート」には貼り付かない」固定概念を覆す

(株)菊井商会は、昭和25年、うちわ用の「でんぷんのり」のメーカーとして創業した。以来、時代の変化に合わせてさまざまな接着剤の開発を手がけており、現在もお客さまの細かい要望に対応した「1品種1ユーザー」の専用接着剤を製作・販売している。

近年、高度経済成長期に整備されたトンネル、橋脚、ダム擁壁などのコンクリート製インフラの更新・補修工事が増えている。発注者である国や自治体からは、将来起こりうる大規模災害に備え、より高い耐久性が求められている。工事を請け負うゼネコンではコンクリートのひび割れや過乾燥による劣化を防ぐために打設後に養生シートで保護していたが、従来のものはコンクリートに含まれる水分で、壁面などには貼り付けることができなかった。シートには、「コンクリートには貼り付けられません」と注意書きがあり、このことは業界全体の常識でもあった。

こうした中、同社に取引先から「トンネル内部のコンクリート表面に接着できる養生シートはできないのか」との相談が寄せられた。トンネル工事におけるコンクリート養生は、これまでバルーン工法(トンネル内で熱風によってバルーンを膨らませコンクリート表面に密着させる方式)という工法が採られてきたが、コストもかかり、養生が終わるまで次の工程に進めないという点が問題となっていた。

そこで、同社は研究を重ね、平成24年に特殊な再剥離粘着剤を塗布することで、コンクリート表面に直接貼り付けて使えるトンネル用粘着養生シートを開発、翌年特許を取得した。

このシートは貼り付けるだけなので、養生しながら次の工程の作業も可能で、コストも従来の3分の1に圧縮することができた。価格は1㎡あたり400~800円、使用サイズに応じて断裁して納品している。

関係者から高い評価を得た商品にもかかわらず、意外にも開発担当者で取締役の保井拓朗さんは「当社の技術を持ってすればそれほど画期的な商品だとも思っていなかった」と感じていた。

その後、取引先からは「トンネルに限らず、野外の橋脚やダム擁壁といった現場でも使用できるものはできないか」とさらなる依頼があり、今回の野外用養生シートの開発に取組むこととなった。

「風」「雨」「雪」にも負けない養生シート

野外では現場によって環境が異なるため、まず、あらゆる環境に対応できるようにシート粘着剤の改良を行った。そして、粘着剤もトンネル用養生シートから樹脂の硬さ、親水性と疎水性および耐熱性と耐寒性のバランスを考慮して改良した。

さらに、粘着剤の塗布量を変えたさまざまなシートを試作して実証テストを実施。実際の現場で想定される厳しい条件で耐風や耐雨、再剥離性などを検証した。

梅雨時期の和歌山県、寒暖差が激しい秋の青森県、北海道の積雪地域などさまざまな場所で、面積4,000㎡、期間は1週間から1カ月で95%以上の接着を条件に合否を判断したところ、いずれもクリアし、この度野外用粘着養生シートとして商品化した。

「確かな品質を確保するには、実証実験で多くのデータを蓄積することが不可欠。しかし多額の費用がかかるため、その捻出に悩んでいたが、中小企業応援ファンドのおかげで、我々のような小規模企業でも本格的な実験が行えた」と保井さん。野外用養生シートにより、高速道路の高架部や橋脚、ダムなどあらゆる現場で低コストでのコンクリート養生が可能となり、社会インフラの耐久性向上が期待できる。

宮城県:擁壁工事
宮城県:高速道路橋梁工事
鳥取県:トンネル工事

ねらいは2020年東京オリンピック

国土交通省が運用する「新技術活用システム(NETIS)」に登録してから受注が増えている。現在は、原子力発電所のトンネルや東日本大震災からの復興に向けた東北地方のインフラ工事などでも採用されている。さらに今後は、2020年の東京オリンピックやリニア新幹線関連工事も見込まれる。保井さんは「オリンピック関連工事では地下道の整備や首都高速道路の改修などさまざまな工事が計画されている。養生シートの需要はますます伸びるでしょう」と期待している。実際に、ゼネコンからの引き合いも増えているという。

現在の生産量は月々20,000㎡であるが、保井さんは「今後の状況によっては増産も検討した。また、大手メーカーの追随も予想されるため、ますます接着技術を磨いていかなければならない」と先を見据えている。

月々20,000㎡のシートを製造
養生シート

新商品にかける熱き想い

取締役 保井 拓朗氏

野外養生シートは、「コンクリートには貼り付かない」という業界の常識を覆し、作業面やコスト面でメリットの大きい」商品です。
より多くの建設現場で使われることを期待しています。

株式会社菊井商会

会社概要

所在地 丸亀市土居町1-9-31
電話 0877-22-3725
URL https://www.kikui-shokai.com/
従業員数 5名
資本金 10,000千円
採択年度 平成26年度