香川県内企業・財団の取組

香川の職人技の「価値を伝える」ニュービジネス(tsutaeru)

新かがわ中小企業応援ファンド等事業を活用

研究者からコーディネーターへ

祖母が呉服屋を営んでいたことから、子どもの頃から着物に親しんだというtsutaeru(ツタエル)代表の尾田美和子さん。京都・西陣織の突出した技術と美しさに魅せられ、大学院では西陣織の研究者として職人たちと触れ合うことも多かった。「西陣織の業界は、大学とも連携して詳細な織物データを残している土壌があります。私は経営戦略の視点から切り込みましたが、その時、業界の疲弊にも直面したんです」と振り返る。

問題意識は高く、和装以外の展開に意欲はあるが、依然として家内制手工業が中心で新商品開発にかけられるコストが少ない。このような業界の現状を踏まえて尾田さんが注目したのは、香川県東かがわ市の手袋産業だった。「香川大学と連携している手袋企業の中に、『西陣織を使ってみたい』という会社がいくつか現れました。ここには西陣織の潜在的なニーズがあると感じたので、研究者として京都に人脈を持つ私なら、コーディネーターとしてのビジネスが可能なのではないかと直感しました」と尾田さんは当時を語る。

まったく畑違いの分野から武器もなく飛び込むなら、絶対に模倣されないオリジナリティを追求するしかない。ただの物販ではなく、伝統産業の豊かな歴史と職人技の物語を込めた、まったく新しい商品をつくりたい─。起業に際して尾田さんのビジョンは明確だったが、少ロットでサンプルをつくってくれる企業がないという壁にいきなりぶつかる。悩む尾田さんが手袋の追加調査に訪れた先で、一人のおじいさんに出会った。「有名な老舗ミシンメーカーの縫製技術者だった方で、この出会いがなければ起業も成しえなかったでしょう」と尾田さん。その場で口説き落とし、中・四国の縫製工場のリストをつくってもらった中に、有名ブランドのみを手掛けているというベビーシューズ専門のメーカーが国内に2社存在し、このうち1社が香川県の企業だとわかった。県内のこの企業は、皇室や英国王室にもシューズを贈った実績を持ち、詳細なノウハウがあった。西陣織の民俗学的な価値と、ベビーシューズという組み合わせは、人生の第一歩を踏み出すハレの日にぴったりのアイテムになるではないかと感じた尾田さんが話を持ち掛けると、シューズメーカーの社長も快諾し、幸先のいいスタートとなった。

在インドブータン王国大使にベビーシューズを贈呈
(左:尾田さん 中央:在インドブータン王国ナムゲル大使 右:ブータン王国名誉総領事)

職人たちの意識改革を!

ベビーシューズの中でも、日本の技術が光るのは12センチ以下。出来上がったサンプルは極めて精度の高い美しさを放ち、尾田さんも感動したという。西陣織を使う付加価値の高いファーストシューズに特化したことが奏功し、香川ビジネス&パブリックコンペ2015ではグランプリを受賞。手応えを感じた尾田さんだったが、すぐに新たな壁に阻まれる。量産ベースに乗せたところ、縫製の品質が大きく下がってしまったのだ。尾田さんがメーカーに作り直しを依頼すると、社長は難色を示した。

「量産品は一般的な品質合格ラインを少し超える程度のクオリティでいい、というのが業界の常識ですが、私は100%、120%の仕事を目指してほしかったんです。途方に暮れましたが、このままではいけないと思いました」。尾田さんは製品を手に複数の縫製工場を訪ね、「希望のクオリティを叶えるためには、職人たちにどう伝えればいいのか」を徹底的に調査。ものづくりを手掛ける職人たちは自分の仕事に誇りを持っているが、その価値を他者に伝える言葉に乏しい。だからこそ、対話の中で「よく気づいてくれた!」と目を輝かせる瞬間があることを尾田さんは研究生活で実感している。職人たちとの共通言語を模索し、言葉を選びつくして作った『ベビーシューズ作成依頼書』を手に、再びシューズメーカーを訪ねた。「決して歓迎はされませんでしたが、それでも家に帰り着く前に、社長さんから『やってみよう』というメールをいただけたんです」。多くの物があふれ「満足」が当たり前になった今、それでも「感動」は少ない。日本の伝統美で「感動」を伝えること、それが尾田さんの願いであることを職人たちが共有した瞬間だった。

尾田さんのこだわりを受け止めた職人たちが、一針一針に技と誇りを込めて縫い上げる

香川と他産地をつなぐ、ものづくりネットワーク

信頼関係が深まったことで、製品のクオリティは驚くほど上がった。生地・縫製・検品オール国産、つまづき防止やかかと保護などディテールが手厚く、内外兼用で、何より鑑賞にも耐える美しさ。それを大切に納めた桐箱には、尾田さんが結んだ職人たちの物語が詰まっている。

全国展開の百貨店などに常設コーナーを設けてもらい、メディアの注目も高まる中で、尾田さんは現場の職人たちに報いる努力も惜しまなかった。「取材の際には積極的に現場をご案内しましたし、ブータン王室に献上した時は製造現場のムービーを大使にお見せして…。職人たちの工賃アップも社長さんに掛け合いましたよ。100%のクオリティを120%に高めるなら、その分きちんと報いる必要があると思っています」。

尾田さんが目指すのは、あくまで「物の価値を伝える」ビジネス。香川の技術と他産地のいいものを結びつけ、新しいものづくりを発信したい人はたくさんいるという手応えを胸に「製品販売」「コーディネート」の二本柱でビジネスを育てていく構えだ。今回開拓した全国的な販路も、これからの尾田さんの大きな武器になるだろう。

新商品にかける熱き想い!

研究者時代最大の成果は、作り手の信頼関係がクオリティや売上に大きく作用することがわかったことです。今回あらためて、この事実を胸に刻みました。海外に発信していくことも視野に、模倣・流出を防ぐ対策も進めています。これからも公益性・社会性の高い商品開発で社会に貢献していきたいです!

代表 尾田 美和子 氏

tsutaeru

会社概要

所在地 高松市屋島西町2323-1 405
電話 087-813-9093
URL http://tsu-ta-e-ru.jp
採択年度 平成28年度